復興のまちづくりのための建物被害調査に、『iField 』を活用
地震動による建物被害の状況を分析

熊本県立大学環境共生学部居住環境学科地域計画研究室

復興のまちづくりのための建物被害調査に『iField 』を活用
地震動による建物被害の状況を分析

2016年4月に発生した熊本地震では、最大深度7という激しい揺れが立て続けに2 回も観測され、当該地域の建物に甚大な被害をもたらした。熊本県立大学では、地震後に学生たちが『iField』を活用して、復興まちづくりの基礎的な資料とするための建物被害の悉皆(しっかい)調査( 現在14 地区、約2400 棟) を実施した。調査の経緯や成果、『iField』の活用法に加え、調査の経緯や成果、今後の展望について、熊本県立大学環境共生学部居住環境学科地域計画研究室の柴田祐准教授にお話を伺った。

建物被害を把握するための悉皆調査

熊本地震は2016年4月14日の21:26に最初の地震(M6.5)が発生、最大震度7を観測して多くの家屋に被害が出た。その後余震と思われる地震が続いていた中、4月16日の1:25に、再び最大震度7を観測する「本震」( M7.3 )が発生した。14日の地震が本震と思っていたところに、それよりも大きな地震が起こったのである。建物の被害は甚大だった。古い建物ばかりでなく、国の耐震基準を満たしているような建物についても、震度7の揺れが2度襲うことは想定されておらず、倒壊が相次いだ。

 柴田氏らが実施した建物被害の悉皆調査とは、任意のエリアにある建物の被害状況に関する全数調査を行うことである。地震災害の被災状況を詳細に記録し、地震動と建物被害との関係の解明を、地形や地質、集落の形成過程等を踏まえて分析することで、復興のまちづくりのための基礎的な資料として、あるいは今後の防災計画の基礎資料として役立てるものだ。
 柴田氏は地震の後、被災地を歩き回って地域ごとの被害状況の把握に努めた。被災地を網羅的に見て状況を把握した上で、被害が大きな地域をピックアップして、柴田研究室に所属する4年生の学生たちを現地に通わせ、日本建築学会の判定基準に合わせて建物1軒1軒について、全壊・半壊の判定を行っていった。調査結果は色分けして地図上にプロットされ、「被災状況調査図」として整理される。

『iField 』を活用して調査を効率化する

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広域にわたる調査はもちろん、建物を被害の状況に応じて塗り分けて地図化する作業が多大なリソースを要することは想像に難くない。その効率化を検討していたところ、新潟県中越沖地震の研究者から東日本大震災の悉皆調査でも採用された『iField 』を紹介され、スマートフォンによる調査を導入することになった。

 「調査後、その場で情報入力、写真を撮影し、位置情報も取得できる。それをシェープファイル等でGISにインポートすれば地図にできます。こうした調査では、いかに正確に、かつ自動的にその場所に情報を落としてデータを蓄積していけるのかがテーマだと思いますが、建物が密集していることもあって、スマートフォンによる位置情報の精度ではピンポイントで建物を特定することができませんでした。
『iField 』ではズレた位置情報を手動で簡単に直すことも可能ですが、今回はあらかじめ各家にポイントとIDを与えておき、現地でID検索をして、そのポイントに対して情報を登録するという 方法にしました」

 調査は学生が2人1組で行っており、1人がポイントの番号が記載されている紙の地図を持ち、もう1人が端末を持ってID検索をして入力するという形で進められた。
 「調査地は主として農村なので、母屋の他に納屋がいくつかあるケースが多いのですが、そのそれぞれについて被災度や塀の倒壊、空き家になっているかどうかなどを見て入力していきます」

 今回は敷地単位でポイントを落とす方法が採用されたが、農村での被災調査で多くみられた擁壁の被害を把握するため、『iField 』ではライン、ポリゴンでの被災状況管理にも対応した。

被災地の農村の存続を考える

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 「学生が普段使い慣れているスマートフォンを利用することですぐに作業に入れますし、自主的に使い方を工夫するようなこともできました。現地でID検索して事前に登録してあるポイントを呼び出して、建物の情報と写真を同時に入力することができるので、調査ミスも軽減できます。また、紙と異なりクラウドに情報が入るので、集計したりグラフを作ったりといった後作業は格段に楽になって助かっています。
さらにGISで地質や傾斜等のデータを重ねることでさまざまな分析も容易にできるようになりました。例えば隣り合っている集落同士で被害状況が全く違うような例もあります。復興に際しては、どうして被害の差が生まれたのかが気になるところです。そこで地質図を重ねてみたり、傾斜を重ね合わせてみたりという形で色々と検討するわけです。

 被害が小さかった方の集落は、古い航空写真( 1956年)と重ね合わせると、当時はまだ集落はなく水田地帯で、いずれも比較的新しい家屋であることが分かります。また水田地帯ですから地形的にも平坦地です。一方被害が大きかった方の集落は古くからあって、傾斜地に位置しています。今回は擁壁の被害状況調査も行っていますが、建物の被害分布を擁壁の被害分布と合わせると、かなりの部分で重なってきます。
現場を見ると、擁壁が崩れたことでその上に建っている家も倒壊しているようなケースも多いので、やはり擁壁のある場所、つまり斜面を成形したような場所の被害が大きいということは言えると思います」

 柴田氏にとって気になるのは被災地の今後のことだ。研究室では現在半年後調査を行っているが、被災地では既に建て直して、あるいは修理済みの建物で人が生活している家もあれば、一部損壊の判定であっても取り壊して更地にしてしまっている土地もある。倒壊したままの姿で残されている家屋もあり、各家によって差が出てきている状況だという。
 こうした状況の中で、まだ手付かずの土地の住民が今後引き続きこの場所に残るのか、別の土地へと移るのか判断をしていくことになる。

「5年は続けたい。それくらいやってはじめて集落が今後どうなっていくのかが見えてくると思います」。集落の今後を見極めるためにも、悉皆調査の取り組みは今後も継続的に行われる予定だ。

( 2016年12月取材)

システムのポイント

  • 被害状況の地図化を短時間、限られた人数で対応
  • ポイントだけでなく、ポリラインやポリゴンでの被災状況管理が可能
  • shapeファイル形式などで書き出し、すぐに地図化

お客様プロフィール

熊本県立大学 環境共生学部居住環境学科地域計画研究室

熊本県立大学は1949年に設置された公立大学で文学部、環境共生学部、総合管理学部の3学部を有する。柴田氏の研究室は地域計画や景観計画、農村計画などを主として、小規模集落や消滅集落の研究と地域資源を活かした活性化に関する研究、さらには地方都市の無秩序な都市の縮小や空洞化などの研究を行っている。県立大学という特有の立ち位置から、学生たちは平時から県内各地を研究フィールドとしており、地域との結びつきは強い。

業種
大学・研究機関
目的
被害調査・フィールド調査
規模
1,000~10,000件

導入サービス・ソリューション